スポーツは子供の「立ち直る力」を育てるのか!?(3)

ストレス社会と呼ばれる今の時代に,たとえ困難な状況に直面したとしてもくじけることなく,たくましく生きていく力を備えていることは重要です.
これまでの記事では「困難な状況からの回復」を表す概念として「レジリエンス」という言葉を紹介し,青少年のスポーツ活動は子供のレジリエンスを高めることができるのか,ということを考えてきました.
そこでは,子供はスポーツ活動で辛く苦しい経験をすることはあるものの,そのような局面を克服していこうとする中で,問題解決能力やストレス対処能力を高めることができるということが指摘されました.
今回の記事では,子供のレジリエンスをスポーツ活動で向上させる試みにおいて,コーチが気をつけたい点をいくつかあげてみたいと思います.

「スポーツで辛く苦しい経験をすることは必要である」というような指導観をお持ちの方は少なくないのではないでしょうか.
私たちは厳しく困難な状況に立ち向かい,それを乗り越えることによって成長してきた経験を持っています.
その成長の部分にこそレジリエンスの向上があるといえそうです.
ところで,ただ単に辛く苦しい経験をさせるだけで,子供のレジリエンスは向上するのでしょうか.
以下に,子供がネガティブな経験から成長するプロセスを効果的に支援していくうえで,コーチが配慮したいポイントを三つあげてみました.

一つ目は,コーチが一方的に困難を押しつけるだけで,子供のレジリエンスの向上が成し遂げられるわけではないということです.
ネガティブな経験は,あくまでレジリエンスの向上をねらった「成長の機会」として理解されることが重要です.
したがって,コーチは子供がネガティブな経験から,成長に向けたどのような学習を行うことができるのかということを意図していることが大切です.
そして,その過程を注意深く見守り,適切なタイミングで困難の克服に必要な情報的サポート(アドバイス等)や実質的サポート(具体的な指導等)を行うことが求められます.

二つ目は,子供に主体性を持たせるということです.
子供が主体的に活動に向かうことで,自らの必要に応じて積極的に行動を起こせるようになります.
そのためには,「直面している困難に立ち向かうことがなぜ必要で,それによって自分自身にどのような成長が期待できるのか」ということをコーチが説明し,理解させることが重要です.
子供は,活動に意味や方向性を見出せることによって,スポーツ活動で生じる様々な問題解決の過程に主体的に我が身をおき,創意工夫と試行錯誤を繰り返します.
そして,根気強くチャレンジを続けることにより子供は体験的に問題を解決する能力を養い,また自らが成し遂げたという成功の実感を得ることができるようになります.

三つ目は,困難の経験によって子供の成長を導くからといって,子供にスポーツの本質から外れた理不尽な経験をさせてはいけないということです.
ここで,ネガティブな経験とは,大切な試合での敗戦や伸び悩み,チームメイトとの人間関係,怪我や病気,学業との両立がうまくいかないなど,多くの子供が経験すると予想されるものです.
これらはあくまでも,青少年のスポーツ活動に内包されると考えられる内容で,私たちはこのような経験を子供の「立ち直る力」の育成につなげたいと考えています.
しかし,そうではなく,ハラスメントとして捉えられるような非科学的な練習や暴力的指導を,子供の成長を導くために必要なこととして正当化することは決して許されるものではありません.
そのことを,私たちコーチは肝に銘じておくことが大切です.

スポーツ活動には子供の成長を導く豊富な学習の機会が含まれています.
それらを適切に取り扱うことで,子供自身が成長に向かうプロセスをいかに効果的にサポートできるかというところに,コーチの専門性があるといえます.

学びつづけるあなたのための研修会

◆コーチ対象のオンデマンド研修会(動画視聴タイプ)
SKJコーチ対象研修会<基礎講義編>
SKJコーチ対象研修会<展開講義編>
◆保護者対象のオンデマンド研修会(動画視聴タイプ)
SKJ保護者対象研修会<基礎講義編>
SKJ保護者対象研修会<展開講義編>