今あるスポーツをさらによいものにして次の世代に伝える

スポーツ活動は子供の人間形成に効果があると言われていますが,それは本当でしょうか.
ただ単に,スポーツをしてさえすれば,健全な人間形成ができるのかというと,それは少し違うような気もします.
大切なのは,子供がスポーツでどのような経験をするのかということだと思います.
皆さんは,子供にどのようなスポーツ経験を提供しますか.

私は大学でスポーツ心理学を教えるかたわら,一般社団法人スポーツフォーキッズジャパンを設立して,主にスポーツコーチを対象にコーチングの研修機会を届けています.
私がそのような活動を始めたのは今から10年前でした.
部活動顧問の体罰を理由として高校生が自ら命を絶つという痛ましい出来事があったときです.

「なぜ,好きなスポーツをしていて,そこまで追い詰められなければならなかったのか」
スポーツが高校生を裏切ったのだと感じました.
そして,このような出来事を招いてしまった原因はどこにあるのかを探りました.
その問いは私自身にも投げかけられました.
この問題に無責任であった自分に気がつきました.

私が大学入学して間もない頃,ある講義でスポーツは楽しいものだと教えられました.
「冗談でしょ...」
講義担当の教授の言うことは間違っていると思いました.
「スポーツは理不尽なことに耐えながら,苦しんでやるもの」「楽しいなどありえない」
これまでの経験から形成された私自身のスポーツ観はそのようなものでした.
しかし,スポーツの学びを継続していく中で,それが「楽しいもの」だとわかるようになります.
そうなると「これまで自分がやってきたことは一体何だったのか」と思い始めます.
この疑問が,私を研究の世界へと導きました.

スポーツを客観的に見れるようになると,スポーツの「陰」の部分が理解できるようになります.
「子供が『スポーツの主人公』になれる活動環境を作りたい!」
研究に打ち込む理由は明確になりました.
しかし,現場でそのために必要な行動を起こしてきたわけではありません.
そのようなとき,10年前の出来事が起こったのでした.
悲しく辛い思いを持ったとともに,日本のスポーツ界に以前から存在していた体罰問題に対して,これまで何もできなかった自分の無能さを悔やみました.
「もうこれ以上,スポーツで子供を苦しめてはいけない」

そのときに書いた文章です.

「体罰で人を動かすことはたやすいかもしれない.
しかし,そこで行動が変わったとしても,それは体罰を行う側に対する脅威が原動力である.
尊敬する指導者が体罰を行うのならば,部員はそれがよい指導であるとの認識を持つだろう.
そうした部員が将来指導者になったとき,やはり体罰を用いて指導を行うこともあるだろう.
体罰が部員にもたらすものは『意思に乏しい行動』と『誤った価値観の継承』である」

そして,最後にこう綴りました.
「この負の連鎖を今こそ止めなくてはいけない」

私はこの言葉に責任を持ち,自ら関与することで課題の解決に臨みます.
そして,私たち大人が正しい知識を持つことで,子供の豊かな活動を支えるスポーツ環境を作ることができます.
しかし,少数の思いで課題解決が実現するとは思いません.
それには,スポーツに関わる私たち一人ひとりの「自覚ある行動」が不可欠です.
このブログを通じて,スポーツ推進委員をはじめとする地域スポーツ指導者の皆さまと繋がる機会を得たことは本当に嬉しいことです.
この連載では「スポーツの主人公」を育成する,これからの時代に求められるコーチングについて考えたいと思います.
今あるスポーツをさらによいものにして,次世代に伝えましょう.
それが私たちにできる,スポーツへの最大の「恩返し」だと考えています.

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